安倍政権の教育政策検討会
2013年1月18日 俵 義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)
06年教育基本法は、「国家教育権」を基本的立場とする、憲法とは相反するものであるが、それを具体化する自民党教育再生実行本部のまとめと、それをそのまま選挙政策にした安倍政権の「教育再生」方針は、「国家教育権」の立場をより徹底し、教育の国家統制をあらゆる分野で徹底することをめざすものである。この「教育再生」によって、教科書はどうなるのか、以下にそれを検討する。
教科書検定制度は維持するが、教科書の内容は事実上の「国定教科書」をめざすものといっても過言ではない。「実行本部」の議論では、「教科書は国定にせよ」という議論が声高に主張され、反論は出なかったという。
「自虐史観」や「偏向」教科書を一掃するための教科書への国家統制・「国定教科書」化。
「まとめ」では明記されていないが、「義家試案」では「教科用図書検定法」(教科書国家統制法)の制定が想定されている。
1.学習指導要領をより詳細な内容に変える
現在の学習指導要領も「大綱的基準」えお超えてかなり詳細になっているがそれをさらに詳細なものにするということ。現在、文科省は学習指導要領の「解説」を作成・発行している。それは学習指導要領をより詳細にしたもので、教科書の内容は「解説」を参考にして編集され、現場の教育も「解説」によって規制されている。しかし、「解説」には「法的拘束力」はない。この方針は、学習指導要領を「解説」と同様なものにするということである。
これによって、教科書の内容を隅々まで規制することができるようになる。
→旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決(1976.5.21)―学習指導要領は「大綱的基準」である限り、合憲・合法に―反する
2.教科書検定基準をより詳細なものにする。「文部科学大臣が、各教科書共通で記載する事項を具体的に定める」。これは、現行検定基準のネガティブ規定(「~でないこと」)をポジティブ規定(「~であること」「~を取り上げること」「~を書くこと」など)に変えるものである。検定基準によって、教科書を隅々まで検定し、政府・文科省が書かせたいことを強制できるようにすることである。
3.文部科学大臣が「共通に記載すべき事柄」を指定できるようにする。
教科書の内容について、「これを書け」というように具体的に指示できるようにする。
教科書内容の画一化、「国定化」をめざすものである。
4.複数の説がある場合には、多数説、少数説を明記する。
例えば、南京大虐殺事件について、「なかった」とする説も書かせるようにする。
多数説の例として、「政府見解」「最高裁判例」をあげているのは、政府見解を教科書に書かせる意図である。また、反動的な判例でも、最高裁判決なら「正しい」と書かせようということである。
例えば、「日の丸・君が代」強制は合憲・合法と書かされる。
5.「数値(特に歴史的事項)」について、複数説がある場合は根拠を明記。
南京大虐殺事件の記述を念頭においたもの。
6.検定基準の「近隣諸国条項」の見直し
日本の侵略・加害記述に対しても検定で修正・削除ができるようにする。さらに、歴史をわい曲する記述(例えば、南京事件や「慰安婦」否定説、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」は軍の強制ではない、など)も検定合格させるねらい。
「近隣諸国条項」=「近隣のアジア諸国との間の近現代史の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がなされていること」。この検定基準の制定当時の文部省の解説では、沖縄戦も適用対象だった。
7.国会が検定審議会委員、教科書調査官(検定官)の任命を国会の同意事項にし、検定プロセスに国会が介入できるようにする。
「まとめ」は「教科用図書検定調査審議会」及び「教科書調査官」の「役割・責任の透明性と公平性を徹底する」としているが、「義家試案」では、具体的に、審議会委員、教科書調査官の人選は国会同意人事とする。さらに、検定について「国会等のよるチェックを可能にする」としている。
国会=多数党=政権党が検定に介入できるようにするものである。
→前記の最高裁判決(教育内容への国家的介入はできるだけ抑制的であるべき)に反する内容である。
8.「河野談話」「村山談話」を見直し、「安倍談話」が出されれば、その「安倍談話」が政府見解として教科書記述を規制することになる。近隣諸国条項もなくなるので、日本の侵略・加害、植民地支配などについての「反省」と「お詫び」が見直されるので、自民党や右派勢力が「自虐史観」と攻撃する、南京事件をはじめ侵略・加害、植民地支配の記述、高校教科書では書かれている日本軍「慰安婦」の記述も修正・削除されることになる。沖縄戦なども同様である。
1.「まとめ」では「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」と「教科書無償法」の「法的な整合性を図る」としているが、「義家試案」では「無償法の規定が優先する旨を明確化」としている。これは沖縄・八重山の採択を念頭において、石垣市・与那国町の育鵬社採択が合法で、竹富町の東京書籍採択が不法ということを根拠づけるねらい。
→従来の「採択権は教育委員会にある」という主張と矛盾する
2.教育委員会を事実上解体して、教育行政は首長と教育長が行うことになれば、「つくる会」系教科書を支持する首長の自治体では、「つくる会」系(育鵬社・自由社)教科書が容易に採択されてしまう。
それだけでなく、育鵬社・自由社以外の教科書も、先のような学習指導要領の改悪、検定制度の改悪によって、事実上の「国定化」がすすむので、全ての教科書がかぎりなく「つくる会」系教科書に近いものになってしまう。
大竹美喜 |
アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)創業者・最高顧問 |
尾﨑正直 | 高知県知事 |
貝ノ瀨滋 | 三鷹市教育委員会委員長 |
加戸守行 | 前愛媛県知事 |
蒲島郁夫 | 熊本県知事 |
鎌田 薫 | 早稲田大学総長 (座長) |
川合眞紀 | 東京大学教授、理化学研究所理事 |
河野達信 | 全日本教職員連盟委員長 |
佐々木喜一 | 成基コミュニティグループ代表 |
鈴木高弘 | 専修大学附属高等学校理事・前校長 |
曽野綾子 | 作家 |
武田美保 | スポーツ/教育コメンテーター |
佃 和夫 | 三菱重工業株式会社取締役相談役 (副座長) |
八木秀次 | 高崎経済大学教授 |
山内昌之 | 東京大学名誉教授、明治大学特任教授 |
13人のメンバー中、明らかに右派・右翼、「つくる会」系が4人、安倍・下村人脈による人選。安倍政権の教育政策を忠実に推し進めるメンバー構成。
下村文科相は、まず「いじめ対策基本法」を議員立法でと主張。
議論が整い次第に、いくつもの教育法「改正」案を国会に出す予定。
1.2005年、06年の教育基本法改悪反対のたたかいを上回る取り組みが必要。
2.安倍政権の教育政策を広く知らせていく取り組み
全国各地で、この内容を知らせるために集会、学習会などの開催
子どもと教科書全国ネット21はわかりやすいパンフレット発行を企画
かもがわ書店がブックレット(中嶋哲彦さん他)を5月に発行
岩波ブックレット発行の働きかけ(佐藤学さんなど)
3.具体的な市民運動の展開が必要
06年の国会前ヒューマンチェーン、現在の原発官邸前行動の経験を活かす
4.その他